「天才数学者、株にハマる」を読み返す

副題: 数字オンチのための投資の考え方

 ナスダックが史上最高値を更新し、コロナバブルの入り口(あるいはリーマンショック以来10年以上の上昇トレンドの最終段階)と思われる昨今、買い煽りの証券会社(たとえばマネックス)と実体経済との乖離から警鐘を鳴らすメディア(たとえばTBS)なかで、米国における1990年代の2000年のドットコムバブルを振り返るために本書を読み返してみた。

 なお、本書は、ワールドコム株に恋し大量に買い付け買い増したあげく、ひと財産吹き飛ばした数学者が、「市場で成立している基本的な数学的関係を俯瞰し、解説し、また探求」する投資理論の入門書。

  • 「投資家は、”根拠なき熱狂”に取り憑かれることがあるし、また、プラス・マイナスをひっくり返して、根拠なき絶望に陥ることもある。2000年初頭の同じ月に、日々の動きとしてはNASDAQ始まって以来最大幅の上昇と下落がたびたび繰り返された。こうしたパターンは2001年、2002年と続き、1987年以来最大幅の上昇が2002年7月24日に実現している。」
    「私たちは恐れと欲の間、非合理的な憂鬱と根拠なき熱狂の間を往ったり来たりする。私たちの過剰な反応は、いつでもどこでも危機感を煽りたがるマスコミによっていっそう助長される。」
  • 心理的な錯覚や弱点のせいで、本質的に相異なるさまざまな状況に対し、私たちはしばしば非合理的な行動をとる。その代表的な例が投資である。」
    「金融に関する根拠のない仮設や非現実的な”目標株価”も同じ効果を持っている。アナリストが”目標株価”を示すのは、投資家の頭の中に数字を植え付け、彼らの考えを操ろうとしているからであるように思えることがままある。」
    「この手の誇張が成功するのは、私たちのほとんどに共通した心理的弱点があるからである。私たちは数字を耳にすると、それがどんな数字でも信じてしまい、それに簡単にとらわれてしまう。こうした傾向を”アンカリング効果”といい、非常に広範な状況に現れることが示されている。」
    「利益や目標株価だけがアンカリング効果をもたらすわけではない。人々は過去1年間での高値(や安値)にとらわれ、それに基づいてものを考えてしまうことがよくあるようだ。」
    「アンカリング効果や利用可能性の誤謬は他の傾向と相俟ってより強いものになる。”追認バイアス”は仮設を肯定する現象ばかりに注目し、否定する現象を無視してしまう傾向である。」「追認バイアスは株式の銘柄選択と無関係ではない。私たちは、自分たちと同じような株に賭けている人に引きづられ、その銘柄について肯定的な情報をいっそう一所懸命に探す傾向がある。」
    「”現状維持バイアス”も投資に適用できる。遺産だけでなく他の投資についても同じことで、価値が下がっていく間たくさんの人々がそれをただただ座視していた原因の1つは、惰性なのである。”所得効果”も同種のバイアスの1つであり、ただ自分が持っているというだけで、そのモノに他人が持っているモノよりも高い価値を与える傾向である。」
  • 「効率的市場論者はS&P500のような、広い範囲をカバーする所与の市場インデックスに追随する、インデックス・ファンドなどのパッシブな投資が一番よいと信じていることが多い。」バンガードの創設者ジョン・ボーグルはこの種の金融商品を一般大衆に提供した最初の人。
  • ウォーレン・バフェットのようなバリュー投資家やピーター・リンチのような驚異的な成功は「バフェットの銘柄選択が市場に影響を与えないと仮定している。今では彼が選んだということ自体や、そして選んだ会社の間にシナジーを作り出せる彼の能力が、他の投資家に影響を与えている可能性がある。」
  • 市場をアウトパフォームするためには、人は私たち全体の複雑性限界の最先端にいなければならない。誰か、あるいはどこかのグループにそうしたことが可能だとしても、そんな状態は長くは続かないのだ。
  • おいしい話や根拠なく威勢のいい話に乗るな。もしも乗るならたくさんの卵を1つの籠に入れるな。万が一入れてしまったなら、急落に備えて保険を掛けておけ。

 シーゲル教授によるとS&PテクノロジーセクターのPERがドットコムバブル時は90倍だったのに対して、今回は25倍にすぎないので、バブルではないとの見解だ。その後、2つのリスク(米国選挙と第2波)の存在についても言及している。二番底の水準は3月の底値と6月の水準の間、6月の水準から15~20%の下げになるという。
 馬のことをもっともよく知る調教師・騎手あがりの競馬予想家でさえ回収率が大したことがないことを考えると、経済の専門家の予想など、それ以上に当てにならないと思うが、さてどうなるか